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カーボンニュートラルに『挑む』ために知っておくべきこと
サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルが急進
2021年11月に開催された国連気候変動枠組締約国会議(COP26)において、「世界平均気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度以内に抑える努力を追求すること」が合意されました(グラスゴー合意)。この国際的な目標達成に向けて、国内でも、東証プライム上場企業にカーボンニュートラルに関する情報開示が義務付けられるなど、国・地方自治体だけでなく産業界においても気候変動に対するより一層積極的な取り組みが求められています。
このような産業界全体に広がる国際的な目標への働きかけを背景に、大手企業からサプライチェーン全体に対してカーボンニュートラルを求める動きが広がっています。
サプライチェーン全体のカーボンニュートラルとは、自社の事業活動に伴う排出(Scope1・2)だけでなく、その事業に必要な調達品や原材料の製造から製品使用段階の排出(Scope3)という包括的なCO2排出のニュートラル化を指します。つまり、大手企業に製品を供給する中堅、中小規模事業者にも、カーボンニュートラルへの対応が求められる潮流が起きつつあるのです。
カーボンニュートラルを進めるための6ステップ
しかし、企業単体でのカーボンニュートラルでさえ、短期間で実現することは困難です。通常の事業活動を続けながらカーボンニュートラル、脱炭素経営を実現するためには、長期的な視野を持ち、どのように進めていくのかを検討する必要があります。
環境省発行の「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック―温室効果ガス削減目標を達成するために―」では、全社的なカーボンニュートラルを進めるための6つのステップを紹介しています。
<STEP1: 長期的なエネルギー転換の方針の検討>
社内の技術開発動向を見据えながら、主要設備に関する今後のエネルギー転換の方針を検討します。
<STEP2:短中期的な省エネ対策の洗い出し>
長期的な方針を踏まえて、短中期的な省エネ対策を検討します。
<STEP3:再生可能エネルギー電気の調達手段の検討>
全社的なカーボンニュートラル化の実現に向け、再生可能エネルギーからの電気調達手段と稼働のための必要量などから、中長期的に最適な再生可能エネルギーへの転換を検討します。
<STEP4:地域ノステークホルダーとの連携>
STEP3を通して把握できた内容に関して地方自治体や金融機関等との相談の場を設けることをおすすめします。補助金制度や融資制度の活用につながるだけでなく、地域の先進事例や類似の取組例などの紹介や削減対策への助言といった情報面でのメリットが得られる場合もあります。
<STEP5:削減対策の精査と計画へのとりまとめ>
これまでのSTEPを通して洗い出した削減対策を整理した後、①各年の温室効果ガス削減量と、②キャッシュフローへの影響を集計し、削減計画にまとめます。
<STEP6:削減計画を基にした社内外との議論>
削減計画を社内外のステークホルダーへ積極的に発信して、認識を共有していきます。社内での理解と協力関係を醸成するだけでなく、社外の自治体や金融機関等と連携して補助制度や融資制度等を活用することで実質的な削減対策につながります。
このように社内で長期的なエネルギー転換の方針を検討した上で、既存の設備の稼働に係るCO2排出量や原単位を調査することから始めることが有効でしょう。
各工程やプロセスに係るCO2排出量を把握した後に改善可能な分野を検討し、省エネ対策を講じることがカーボンニュートラル実現の第一歩となります。
カーボンニュートラルに取り組む3つのメリット
カーボンニュートラルの施策を講じることは、社会や取引企業からの要請に応えることだけが目的ではありません。企業経営におけるいくつかのメリットにも注目してみましょう。
「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック―温室効果ガス削減目標を達成するために―」では中小企業がカーボンニュートラルに取り組むことの5つのメリットが紹介されています。
【1】 優位性の構築
カーボンニュートラルへの取り組みを推進することで、新たな企業との取引の機会が広がっています。環境対応の進む企業においては、取引の際にCO2排出量の開示は取引条件となりつつあります。カーボンニュートラルの取り組みを通じて、企業がより「選ばれる供給業者」となり今後一層、売上・受注拡大に向けた競争力として作用していくことが期待できます。それに加え、カーボンニュートラルを講じるための省エネ施策は、結果的に企業の製造原価低減に結びつくため価格優位性を生むことも期待されます。
【2】 稼働に係るコスト削減
カーボンニュートラルに取り組むことで、どの工程の作業内容からどれだけCO2が排出されるかを把握できるだけでなく、稼働に係る光熱費や燃料費のコストを工程別に洗い出すことも可能になります。このように見える化することで、電気使用量の削減や効率的な設備への更新を目指すことにもつながります。
【3】 企業ブランドや認知度の向上
省エネに取り組み、大幅な温室効果ガス排出量削減を達成した企業や再エネ導入を先駆的に進めた企業は、メディアへの掲載や国・自治体からの表彰対象となることを通じて、自社の知名度・認知度の向上に成功しています。特に、中小規模事業者の取組はまだ数少なく目立つため PR 活動にもなります。
【4】 脱炭素の要請に対応することによる社員のモチベーション向上や人材獲得力の強化
気候変動という社会課題の解決に対して取り組む姿勢を示すことによって、 社員の共感や信頼を獲得し、モチベーションの向上に繋がります。また、気候変動問題への関心の高い人材の雇用機会を増やす効果が期待されます。
【5】 資金調達の可能性を高める
社会動向の変化に伴い、金融機関の投融資判断にもカーボンニュートラルが組み込まれるようになりました。現在は、大手銀行から地方銀行まで、目標達成度合いに応じて貸出金利を変動させるサステナビリティ・リンク・ローンを始動させており、大企業、中堅、中小企業など会社規模に関わらず導入が進んでいます。加えてこの投融資では、省エネ設備導入資金などへの融資や算定サービスの提供を組み合わせた経営支援の実践を行っている場合もあります。
このようにカーボンニュートラルへの取り組みは、事業基盤の強化や新たな事業機会の創出、 企業の持続可能性強化のためのツールとして重要な役割を果たします。
今回は、カーボンニュートラルとは何か、そして取り組むことで得られるメリットに関してお伝えしました。次回の後編では、カーボンニュートラルに取り組む企業事例を紹介していきます。
参考資料:「中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック―温室効果ガス削減目標を達成するために― Ver.1.1」(環境省、2022年)https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12294133/www.env.go.jp/earth/datsutansokeiei_mat03_20220418.pdf
研究員(インターン) 中田未貴
フルハシ環境総合研究所では、(一社)サステナブル経営推進機構と共同でカーボンニュートラルサポート・Nagoyaオフィスを開設し、カーボンニュートラルに向けたLCA、Scope1-3の算定、省エネ診断等の実働支援を行っています。より多くの企業がカーボンニュートラルの実現に向けて取り組める基盤を提供し、共に脱炭素化社会を目指します。
以下のURLより、カーボンニュートラルサポート・Nagoyaオフィスの詳細が確認いただけます。
https://www.fuluhashi.jp/carbonneutral/