prev

【欧州動向】欧州の競争戦略—ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の成長計画
2019年から欧州委員会の委員長を務めるウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、2023年9月13日の「欧州連合の現状報告演説」においてEUの2024-2029年に向けた目標として、欧州の競争力を強化するためにより強力でビジネスに優しい単一市場の確立を目指すとともに、二次原材料の需要促進や循環経済の推進を掲げました。このアプローチは過去20年間、他の主要経済国との生産性の差が原因で欧州経済が低迷してきた状況を踏まえており、欧州が抱える構造的な課題を解決する必要性を強調しています。
ライエン氏は2024年7月に欧州議会本会議における採択において過半数となる401票を獲得し、再選を果たしました。そして、委員会は今後5年間の経済成長と競争力向上を中心に据えた政策の一環として、2025年1月29日に「EU競争力コンパス」と題するコミュニケーション文書を発表しました(https://commission.europa.eu/document/download/10017eb1-4722-4333-add2-e0ed18105a34_en)。この「競争力コンパス」は、EUの取り組みを方向付ける新たな枠組みであり、EUの各機関、加盟国政府、地域当局、そしてEU域内の企業を主な対象としています。日本企業にとっても、EU市場における最新の政策動向を理解し、ビジネス戦略を検討する上で重要な指針となると考えられます。
本コラムでは、この「競争力コンパス」の概要と今後の展望について紹介します。
2025年1月29日、ライエン委員長は競争力向上に向けた重要な戦略的枠組みである「競争力コンパス(Competitiveness Compass)」を発表しました。この新しい指針は、今後5年間のEUの政策設計における道標となるもので、特に新興企業や中小企業に対する規制の簡素化、民間資本の動員、イノベーションや持続可能性の促進を目的とした政策の効果的な実施をサポートする体制を強化し、加盟国と欧州機関の協力を推進しています。
「競争力コンパス」は経済学者であり、ヨーロッパ中央銀行の総裁やイタリアの首相を務めたマリオ・ドラギ氏監修による欧州の競争力に関する報告書、通称「ドラギレポート」(https://commission.europa.eu/topics/eu-competitiveness/draghi-report_en)の提案を基に策定されました。レポートの中でドラギ氏はEUがこれまで依存してきた成長要因からの脱却を訴え、欧州を新たな成長軌道に導くための具体的な提案を行っています。この枠組みは「3つの行動分野」と、それを支える「5つの横断的支援策」によって構成されており、EUをグローバルリーダーとしての地位に押し上げることを目指しています。
「競争力コンパス」は、ドラギレポートを行程表に落とし込んだものです。以下に「3つの行動分野」と「5つの横断的支援策」について説明します。
欧州は気候変動に左右されない持続可能で繁栄した未来を目指し、競争力コンパスを通じてその戦略を実行に移し、世界経済の舞台でリーダーシップを確立しようとしています。
競争力コンパスは主にEUの経済的活力を促進することに焦点を当てていますが、その影響は日本などの主要なパートナーにも波及して貿易やグリーン技術分野においてリスクと機会の両方をもたらす可能性があり、引き続き注視していく必要があります。
フルハシ環境総合研究所では国内外の環境関連の動向についても調査しております。
ご相談事がございましたらお気軽にお問い合わせください。
研究員(インターン) 太田新菜、研究員 中村晟一朗