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【欧州動向】チタンの確保のための政策提案
EUは、重要原材料の供給を大きくEU域外からの輸入に依存しています。今後数年間で使用が増加されると予想されるチタンも例外ではなく、EU域内での生産能力は非常に限られています。
そこで、持続可能な確保のための政策提案が欧州委員会の研究機関(共同研究センター:JRC)より発表されました。
このコラムでは、1月23日に公開されたJRCの報告書「Titanium metal in the EU: Strategic relevance and circularity potential(EUにおけるチタン金属:戦略的重要性と循環性の可能性)」の内容について解説します。
チタンは、航空宇宙および防衛産業にとって極めて重要であるだけでなく、欧州が進めているグリーンとデジタルへの移行に欠かせない発電機やスマートフォン、タブレット、ノート型パソコンなどのIT機器にも使用されています。
チタンのサプライチェーンの課題に早急な対処が求められる背景には、ロシアのウクライナ戦争などの地政学的な変化や、航空宇宙産業や防衛産業からの需要増加の予測があります。
世界の主要なチタンの生産地域は、高品質のスポンジチタン(高純度チタン原料)については日本、ロシア、カザフスタンなどの限られた地域に集中しています。中国はチタンの溶融と鍛造においては大きなシェアを確立していますが、高品質のチタンの輸出は不足しています。
このように、ロシアからのチタン供給を喪失したEUが、供給元を多様化するのは難しい状況です。そこでこの報告書では、チタンの輸入を減らし、EU域内での循環性の向上を高める必要があるとしています。
報告書では、EUのチタンサプライチェーンを強化し、外部依存を減らし、循環型経済への移行を促進するための政策提案を実施しています。緊急性の高い順に以下の5点を挙げています。
上記のようにチタンのEU域内でのクローズドループを目指し持続可能性を確保することは、EUの戦略的自立の強化のほか、雇用拡大にもつながるとしています。
また、これらの提案は、重要原材料法(CRM法)、ネットゼロ産業法、グリーンディール産業計画、WEEE指令の見直し、ドラギレポートなど、最近および今後の政策やガイドラインをサポートするものとなっています。
以上、JRCによるEUにおけるチタン金属に関する報告書の内容を解説しました。
チタンはEUの重要原材料法の対象にもなっています。チタン以外の重要原材料についても、世界で囲い込みが激化しつつあるため、世界情勢の注視が必要です。
フルハシ環境総合研究所では国内外の環境関連の動向についても調査しております。ご相談事がございましたらお気軽にお問い合わせください。
研究員 山本涼子, 中村晟一朗